内倉憲一 ニュースレター Vol. 363 In-N-Outが7UPを提供し続ける理由に学ぶビジネス戦略
2025-11-12
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In-N-Outが7UPを提供し続ける理由に学ぶビジネス戦略

 

アメリカ西海岸で高い人気を誇るハンバーガーチェーン「In-N-Out Burger(イン・アンド・アウト・バーガー)」は、シンプルなメニューと一貫した品質で熱狂的なファンを獲得しています。そんな同社のドリンクラインナップには、コカ・コーラ製品が並んでいますが、レモンライム系のソーダとしてSprite(スプライト)ではなく、7UP(セブンアップ)が採用され続けていることに気づく人も多いでしょう。この点について、かつて何らかの特別な支援を受けたからだという噂話が存在しますが、これを裏付ける公式な記録は確認されていません。

では、なぜIn-N-Outはいまだに7UPを選び続けているのでしょうか。その背景には、同社の「戦略としての一貫性」と「長期的なブランド構築」の哲学が大きく関係しています。

まず、In-N-Outは創業当初から「必要以上に商品ラインを広げない」という方針を徹底してきました。7UPは初期からのラインナップの一つであり、同社の「変えないメニュー文化」に組み込まれています。

次に、同社は「顧客が期待する体験の再現性」を重視しています。常連客の中には「In-N-Outではバーガーと一緒に7UPを飲む」という習慣が形成されており、それは味覚以上に感覚的な「ブランド体験」の一部となっています。メニューからSpriteに変更すれば、味の違いだけでなく「In-N-Outらしくない」と感じる顧客が出てくる可能性があります。

また、多くのファストフードチェーンがSpriteを採用している中で、7UPの継続は「差別化」としても機能しています。同じようなメニュー構成が増える市場において、他社と完全に同じ構成にすることはブランドの独自性を薄める結果につながります。つまり、変化しない決断は単なる惰性ではなく、ブランドを守るための戦略的選択なのです。

ここから導かれるビジネス教訓は明確です。一貫性は信頼を生み、伝統は差別化の力となります。企業が提供する商品やサービスが顧客にとって「いつもの安心感」を持つものであればあるほど、その存在は日常生活の習慣の中に深く入り込むことができます。また、「なぜ変えないのか」という判断軸を明確に持つことで、商品ラインやブランド価値がブレることを防ぎます。

In-N-Outの7UP採用には感動的な裏話は存在しないかもしれません。しかし、それ以上に価値があるのは「変えない強さ」を通じて顧客の信頼を長期的に蓄積してきたという事実です。ブランドとは派手な宣伝ではなく、日々の選択の積み重ねによって築かれるものです。中小企業も、自社の「変えない価値」とは何かを見直し、その継続が顧客との信頼関係にどのように作用しているかを今一度考えてみる必要があるでしょう。

 




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